募る想い
− Birthday Rhapsody −



「ヒルダ…」
その名を口にする。
胸が締め付けられるような思い。そして痛み。
それは何年経っても消えるものではなかった。年々薄らいでゆくかと思われたそれは、むしろ強くなるばかりだ。
声が聴きたい。
触れたい。
抱きたい。


君を求めて心は彷徨う。
シルエットを求めて、後姿を求めて、手を差し出しても触れる前に細かい砂塵となって風に浚われてゆく。


雨が降っていた。空は暗く鈍い色を醸し出し、激しく振る雨音に何もかも消されているように思われた。
だから…あれは恵みの雨だと思ったのに。雨は味方してくれなかった。
気が付いたときには冷たくなった君に取りすがり叫び続けていた俺がいた。冷たい身体を与えられた俺がいた。


あの日から、愛しい者の名を呼んでも返事はない。
振り返っても微笑みは返って来ない。
触れたくても触れられず、話しかけても言葉は聴けず、手を延ばしても掴むことはできず、愛しさは募るだけ。
白く透き通った肌の温もりも、穏やかな子守唄のような話し声も、今となっては味わえない。


君に贈った金の指輪が胸元に鈍く輝いている。
ヒルダ。
ヒルダ、ヒルダ、ヒルダ、ヒルダ、ヒルダ、ヒルダ、ヒルダ…。
言葉にならない想いが胸の中で膨れ上がり、自分を押し潰そうとする。
このまま潰してくれればよいのに、そうすればこれほどまでに焦がれなくても、
心は新しい羽を得て自由な空へ飛んで行けるのに…。


ヒルダ。
いつまでこの想いを抱えていればいい?
いつになったら解放してくれるのか?
君への想いはますます強くなるばかり。


聴きたい、君の声。
触れたい、オパールのような肌。
抱きたい、温かな身体。


指輪に触れても冷たい感触ばかりが心に針を刺す。
それでも手放さずにはいられない。これは君自身、そして俺自身でもあるから。


九月十九日
紛れもなく俺の誕生日。そして…。


「…誕生日が同じだなんて、不思議ね…」


全てがこの日から始まった。
俺が生まれ、数年後に君が生まれた。
十数年後に二人は出会い、惹かれあい、恋をし、かけがえのない対象になった。
確実に未来を歩んでいこうと決めた、その日。
指輪の内側をそっと覗き込む。
194×、9、19 A to H


愛の証である指輪も二人の運命と共にがんじがらめに為らざるを得なかったのだろうか。
何年経っても君への想いばかり迸る。
Birthday Rhapsody … 募る想いは消えることなく。