プレゼント


9月19日。
誕生日の記念すべき朝。
その朝、目覚めた瞬間、彼、アルベルト・ハインリヒはいやな胸騒ぎを感じた。

とてつもなく、いやな、予感。
以前にも何度か味わった事のある、あの感じ。

着替えて顔を洗い、キッチンへ向かう。
そこへ勢揃いしている彼の仲間達。
1・2・3・5・6・7・8・9・そして博士。
彼らの顔に浮かんでいるのは、おかしいくらいの、笑顔。

『アルベルト、お誕生日おめでとう』
「よ、おめでとう!おっさん、いくつになったんだ?」
「またみんなとこの日を迎える事ができてうれしい。おめでとう」
「おめでとうアル〜!今日は腕によりをかけてごちそうを作るアルよ」
「おめでとう。何にしろ、歳をとるのはいい事だよ。吾輩の年齢に近付くということだし」
「誕生日おめでとう。またよい一年をすごせますように」
「おめでとう・・・うう、歳をとるとどうも涙もろくなって、いかんのう・・・」
「アルベルト、おめでとう!・・・あれ、アルベルト、顔色悪いけどどうしたの?」

ジョーが心配そうに彼の顔を覗く。

「いや、なんでもない・・・」
アルベルトはそう嘘をついて、自分の席に座ろうとした。

そこで初めて声を出した紅一点。
「ちょっと待ってアルベルト。あなたに誕生日プレゼントがあるの」
「なんだって?」

フランソワーズが笑う。みんなも笑う。

「朝食の前にいい?ちょっと来て」
フランソワーズがアルベルトの手をとって、家の外へと案内する。

「ちょっと待てフランソワーズ。なんで外へ・・・」
「来ればわかるわよ」

二人の後を、彼の仲間達はついていく。
「さあ、見て!」
フランソワーズがそう言って玄関のドアを大きく開けた。
すると、彼の目の前に映ったものは・・・シルバーボディの4トントラック!

「!」
アルベルトは言葉を失ってあんぐりと大きな口を開けた。

シルバーの4トンウイング車。ピカピカのボディ。明らかに新車だ。
そしてそのボディの横には大きく『ドルフィン運送』と書いてある。

「このトラックが私達からの誕生日プレゼントよ。どう・・・?うれしすぎて言葉も失っちゃったかしら」


ぼーせん・・・・・・


「あなたもそろそろ仕事に就いた方がいいと思って。ドルフィン運送って知ってるでしょ?
あのとも☆ちゃんとかっていう事務員さんがいる運送会社よ。
今人手不足だから、車持ち込みの運転手も大歓迎だっていうので、さっそく勤め先決めてきたわよ。
明日は祭日で休みだから、さっそくあさってから来て欲しいって!」

「おまえら・・・」

「・・・?」
みんな、全く悪気のない心からの笑顔。

こんなことをして、俺が喜ぶと思ってるのか?
運転手の仕事はまあいい。だが、あの、とも☆とかっていう女がいる運送会社だと・・・?
あの女、今までもさんざん俺につきまといやがって、もう二度と会うのはごめんだと思っていたのに、
これからは毎日のように顔を合わせなきゃならない・・・の・・・か・・・?

「あら、アルベルト、泣いてるの?」
そんなに喜んでくれるなんてうれしいわ、とフランソワーズはつぶやいた。


チキショー!


アルベルトは突然そのトラックの運転席に乗り込んだ!
助手席には真新しいドルフィン運送の作業着と、安全靴。そして新品の日報。
アルベルトは、勢いよく、エンジンをかけた!

そしてアクセルを思いっきりふかし、彼はどこかへと行ってしまった・・・

「アルベルト、よほどうれしかったのね・・・」
うれし泣いているフランソワーズと仲間達。

「アルベルト、免許証持たないで行っちゃったよ・・・?」
どこまでも天然な、ジョー。


その後のアルベルトの行方を知るものは、誰一人として、いない。

(終わり)


アルベルトへのメッセージ・・・「全然お祝い話になっていなくてごめんなさい・・・」